どん底   bunkamura シアターコクーン
2008年4月13日(日) 14時〜17時15分(休憩15分含)
演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ




ちょいネタバレあり


 初日から1週間が過ぎ、ちょうどいい時期に見たのかなぁ〜という気がする。
原作も読まず、普段舞台も見に行かず・・ケラさんが日本人だったとも知らず・・(笑)、ただただ江口君が出演するという1点のみで、チケット購入したのだ。今回は右側とはいえ、前から5列目という良席にて観劇でき、舞台の役者さんの表情までバッチリ観察できた。

 汚い木賃宿で、どんな人間がどういう風に暮らしているのか、序盤はそれが延々と続く。もちろん芸達者な方たちなので、これがお芝居ってもんなんだわっと、感心してみていたんだけど、さすがにもう少しだけ、かいつまんでもいいんじゃないか?と思ってしまった。

 段田さんが出るまでずいぶん引っ張るときいていたので、老人が出てきたのでこの人だとすぐに思った。さすがベテラン、まったく声色が違う・・見た目も、どっからどうみても段田さんとは思えない・・すっ、すごい。
しかし、しばらく見ていた後、段田さん登場してきた。
老人だけど、どっからどう見ても段田さんで・・どっからどう聞いても段田さんの声だった。段田さんが出てきたのに気づかなかった・・といろんな人が書いていたが、段田さんに気がつかないのではなく、段田さんじゃないことに、気づかないのである。だって江口君と段田さん以外知らない役者さんばっかなんだもの。きっと、江口君がいつ出てくるのか?気になって、意識が散漫になっていたからだ。←弁解。

 誰かがドアの外でペーペル役の江口君を呼ぶ。それに返事するのが、江口君の第一声なのだ。もちろん部屋の中から返事をするというので、姿は見えない。ただ江口君の声だけが響いてくる。それでなくても始まって何十分も放置されていて、いつ出てくるんだよ〜、引っ張るなぁ〜〜と苦笑いしている最中でありまして、ここまできてもチラチラと声だけでお預け・・あたしゃ犬か・・と。

 だからドアが開いて現れた時は、「うわぁ〜〜〜キタぁ〜〜〜〜!!!」
私だけじゃなくて、客席全体がそんな感じ・・たぶん。(笑)

 そんだけ待って胸躍らせていたのに、江口君ったら・・けだるそうで、眠そうで・・たぶん今まで寝ていたクセに、まだ寝たりなさそうに、大あくび。3回もするのよ!!
江口君が舞台に登場した瞬間、歩き出した瞬間、そして声を発した瞬間・・全然違う。
瞬時にそれだけ思った。

 約2年半前に舞台にたっていた江口君と、まったく別人の江口君がそこにいた。
もちろんあの時の役と今の役は、まったく違うのだけど、江口君自身は江口君なわけで、私から見たらあそこにいるのは、江口君なんだよ。
そしてもうひとつ違っていたことがあった。
それは・・私。
座席に着いた私が違っていた。
ドキドキしちゃって、江口君大丈夫かしら・・ちゃんとセリフいえるのかしら・・。つまったりしないかしら・・。1人浮いたりしちゃわないかしら・・そんなことばかり思いながら見ていた2年半前の舞台。

ところが今回は・・・、座席についてから、どんな舞台だろう〜どんな江口君が見られるのだろう〜と、ワクワクしていた。見終わってから気づいたんだけど、一度も一瞬たりとも心配などしなかった。そんなことすっかり忘れていた。それから・・前半はどうしても江口君だけを目で追ってしまったのだけど、後半へきて、江口君から目を離したくない・・とアタマの中で思うのだけど、どんどん舞台が盛り上がってきて、お芝居を見ちゃっている自分がいた。目を離してしまったら、江口君のちょっとしたしぐさを見逃してしまう・・そう思いつつ、1人1人が際立って、それが全体とうまくあいまって、舞台全体に気持ちがいってしまうのだ。

 私は原作を読んでいないため、ペーペルがワシリーサと恋愛関係にあるので、荻野目慶子さんとちょっとしたラブラブシーンでもあるのかな?と思っていたけど、まったく想像と違っていた。そりゃそうだよな、あの荻野目慶子さんだもの・・・そんな普通の恋愛を楽しむわけがない。そこには、おどろおどろしい女の情念みたいなものがあって、荻野目さんがカラダ全体で放ってくる。それを江口君がどう対峙するのか、そこらへんが見ものだった。結果としては、そういう女に勝てるほど、ペーペルは賢くなかったということなのだが・・。
そこらへんペーペルはツメが甘く、考えることが浅い・・そんな風に舞台上の江口君を見ながら思ったりした。もうこの時点で、江口君カッコイイ〜〜とかが、私の中から移動しているのだ。ペーペル、何やってんのよ、それじゃぁヤバイじゃないよ〜とか食い入るように見ていた。

 ペーペルがワシリーサの妹、ナターシャが好きになっているようで、グイグイとナターシャにアプローチしていく。貧乏な泥棒のくせに、ずうずうしく、なおかつ結構強引に口説こうとする。それでいてちょっと躊躇してみたり・・。私はこのくだりが好きだ。どこまで本気なんだか、真剣なのか・・それとも面白がっているのか・・わけがわからない。ナターシャ自身がそう言っていたが、私も同じように感じるのだ。そこへ段田さん演じる謎の老人が「ナターシャを連れてこの暮らしを抜け出せ」とペーペルにアドバイスする。今まで漠然と、そして胸の奥深くで、できることならどうにかしたいと思っていた何かを、老人に触れられ、そしてポンと背中を押されたわけだ。

 けれど、ペーペルが本気になったことで、ワシリーサの嫉妬がナターシャへ全面的に向けられていく。そこから少しずつ歯車が狂いだしてしまう。休憩挟んで後半開始から、一気に物語りは加速した。ペーペルがナターシャを愛するほど、ナターシャは姉に傷つけられ、それを救おうとするペーペルを姉夫婦はあざ笑う。そしてみんなの見ている中で、ワシリーサの夫が死んでしまう。


ここからクライマックスに向けて、少しずつ降り落ちていた雪が、どんどん激しくなる。その雪の降りと比例するように悲劇が始まっていく。その悲劇の主人公がペーペルであり、ナターシャであり・・ワシリーサでもある。ここは圧巻だった。
愛するナターシャの言葉で、地獄に落とされるペーペルの信じられないような表情。
「なんで・・・・・・、どうして・・・・」
人はこんな状況に置かれた時、こんな顔をするのだろうか・・。
見えない何かで、自分の目の前の景色をいきなり遮断されたようなペーペルの絶望が、客席で見ている私にも伝わってくるようでもあった。

この後音楽とともに、ペーペルのその後が垂れ幕に書かれていて、江口君の出番はそこで終った。

私としては、ここで舞台を終わりにしてもよかったじゃないかなぁ〜〜と思ったし、今でもそう思う。だけど、ケラさんがわざわざ原作にない役を追加したというのが、この後のシーンで、たぶんこの「どん底」という舞台をするうえで、その部分はケラさんの伝えたいものなんだろうと思うんだよね、だからそこはきっと必要だったんだろうけど・・。
だけど、それにしてもクライマックスからのその後のシーンが、とても長く感じる。別に江口君が出てこないから・・という理由だけじゃなくて、序盤と同じようにどうでもいいんじゃなの??というシーン、セリフがだらだらと続くので、まだ終わりにならないのかなぁ・・・と何度も思ってしまった。せっかくいいお湯に入ったのに、すぐにふとんに入れば暖かくぐっすり眠れるのに、いつまでもぐずぐずしてすっかり冷えてしまった・・みたいな。(笑)
それが残念だった。

最後のカーテンコールは、みんなで「カチューシャの唄」を歌うんだけど、ここはもう江口君に釘付けだった。最初は普通に小さく口を動かしている歌っているんだけど、だんだんと口が大きくなって、それと同時に右足で取っていたリズムも身体全体というか腰で取り始め、もうノリノリで歌っている姿が嬉しくて嬉しくて・・。ここはもう、惚れ惚れしちゃう。
ここではもうカッコイイ〜〜〜〜!!の言葉しか浮かんでこなかった。
そこにいるのはペーペルじゃなくて、江口君なんだもん〜〜って感じ。

見ながら、なんか思ったね。
どうよ!すごいだろ!
これが江口だよ。
舞台見に来た人・・びっくりしたでしょ。
カッコイイ〜〜なんてもんじゃないっしょ??
あたしは、この江口のファンなんだから・・。
江口がいるから見にきたんだからさ。
どうよ!!

なんかね、自慢だった。
この人のファンで、すごい自慢だった。
できることなら、みんなに見せたい。
江口君のファンの人はもちろん、そうじゃない人にも・・。
見なきゃもったいないよ、見せてあげなきゃもったいないよって感じ。


2008-4-20著