なぜ君は絶望と闘えたのか   wowowoドラマ
原作:門田隆将『なぜ君は絶望と闘えたのか 本村洋の 3300日』(新潮社刊)   2010・9・25〜26
 平成22年度(第65回)文化庁芸術祭テレビ部門・ドラマの部 大賞受賞作品  監督:石橋冠


 文化庁「芸術祭テレビ部門・ドラマの部 大賞 受賞理由
 
 現在も係争中の「光市母子殺害事件」の裁判取材記を見事にフィクション化。主人公を記者としたことで広がりのある作品となり、記者の眼を通して、人間の絶望、孤独、そしてそれと闘う姿が骨太に描かれラストまで引きつける。被害者遺族青年の陳述シーンは圧巻。繊細で温かな石橋冠の演出と江口洋介の演技が光り、命の大切さ、生きる意味、家族愛、友情が心に響く秀作。


 キャスト
江口洋介 
 
眞島秀和 
 ミムラ
 木村多江
小澤征悦 
市毛良枝 
西岡徳馬 




 

 このドラマの感想といっても、正直、何をどう書いたらいいのか・・・。今までの江口洋介主演・出演ドラマと同じ感覚では、とても書けそうもなく、1つの作品としてみても、感想としてあらわすのは難しい。

 今までもいろんな事件のドラマ化、映画化の作品は数々あったが、「光市母子殺害事件」そのものが、ものすごくセンセーショナルだと思っていた。被害者遺族であるご主人が、会見を開く姿を何度もTVで見ていたし、新聞・週刊誌での取り上げられ方から、不謹慎だけれど「光市母子殺害事件」のご遺族そのものが、ドラマのようだと感じていた部分がある。それって結局、他人事で全然わかっちゃいなかったのだ・・と、このドラマを見ているうちに、気づかされる。

 報道で見てきたこと、裁判で起こったことは本物なので、ドラマが進んでいくと、ああ、あの時あんな報道があったな、ご主人があんなことを言っていたな・・と思い出すので、非常にわかりやすかった。


 被害者にとって、敵は加害者。あたりまえなのに、実はそれだけではないことに気づかされる。被害を受けた人間なら、守ってくれるのが当然と思う法律が、時にはネックになるなんて、当事者にならなければ、きっとわからないことだろう。遺影をもって入廷してはいけない・・まさか法廷に入るところから、闘いが始まっているなんて・・・。裁判にたどりつくまでに、いくつもの壁と闘いがある。いくつもの絶望がある。



 「なぜ君は絶望と闘えたのか・・・。」



 本当に、なぜなの・・・・・?と思う。
明確な答えなど、存在するのだろうか・・。存在していいのだろうか・・とさえ、おもえてくる。


 いろんな印象的なシーンが数々あった。
被害者を演じた眞島さんの意見陳述シーンは、こんなにもというくらい、胸の奥に響いてきた。
愛する妻と娘の最期の姿を知っているのは、手をかけた加害者だけ。息絶えていく顔を知っているのは加害者だけ・・。だからその姿を加害者は決して忘れてはいけない。
確かにそうなのだ。言われてみればそうなのだ。けれど、言われてみるまで気がつかない。

 こんなに愛しているのに、妻と娘の笑った顔は覚えているのに・・なぜ笑ったのか思い出せない。少しずつ少しずつ、手のひらから砂がこぼれ落ちるように、記憶が薄れていく。それがより悲しく、せつない。忘れたくない、何一つ、記憶の中にとどめておきたい・・・と町田は泣く。

  でも・・だから生きていけるんじゃないかと・・・思ったりもする。被害者の町田さんにとって、記憶が薄れていくということが、幸せとか前を向いて生きていけるということと、できれば比例していってほしい。妻と娘を殺された被害者として、無意識の中で生きてきた町田さん。世間の目もあったでしょう。可哀そうだけど、目立ちすぎ・・テレビに出過ぎとか・・決して敵ではない人たちが思う感情の中で、どう自分を立て直していったのか。支えてくれる人たちがいたからというけれど、それでもの孤独の深さははかりしれない。

 わかっていると思っていた町田さんの孤独の深さや苦しみは、実はわかっていなかった。そこに気づいた時、北川がフリーになる決心をする。事件が起きてからの町田さんも、年月につれ変わってきたけれど、記者である北川も、同じように変化を起こしていたのだ。こうした目に見えてこない変化を、ちょっとした表情で巧みに表していた。

 忘れたくないという町田さんの気持ちもわかる。
けど、妻と娘を殺された夫は、街中で友人と笑いあったり、酔っ払ってふざけあったり、旅行にいって笑顔で写真とったり、できそうでできない数年間だったんじゃないだろうか。いつでも辛い、悲しい顔をしていなきゃいけないわけでもないのに、なんとなく世間はそう感じる。殺人事件の被害者というのは、被害を受けた事実だけでなく、あらゆる被害を一身に受ける・・・そんな世の中はおかしい。

 いろんなことを考えさせてくれるドラマだった。
このドラマにオファーされたこと、ファンとしては誇りに思う・・そんなドラマでした。




2011・1・5